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事業承継税制はどうなる?! 株式評価はどうなる?!
2025.05.23
【YUI レポート配信に際して】
株式会社YUIアドバイザーズ及び税理士法人ゆいアドバイザーズは2021年(令和3年)に日本橋において産声を上げました。2024年11月には業務拡張のため事務所を現在地に移転し、今後とも皆様に対してより一層高度な資産税サービスを提供できるよう研鑽を重ねていきたいと考えています。
弊社は、設立当初からセミナー講演、業界誌への寄稿、書籍出版等を積極的に行ってきましたが、この度、更なる情報提供の場として不定期になりますが「YUI レポート」を配信することにしました。「YUI レポート」の配信を通じて、今まで以上に皆様との関係強化に繋がることを期待しています。引き続き宜しくお願い致します。
ちなみに、「YUI レポート」は名刺交換させて頂いた一部の方を配信登録しました。同僚知人の方で未配信の方が配信希望される場合又は配信不要の場合は、下記より登録頂ければと思います。
今回は、事業承継に関する最近の話題を紹介します。
≪事業承継税制≫
1.事業承継税制の創設と変遷
事業承継税制は、2008年に中小企業における経営の承継の円滑化に関する法律(経営承継円滑化法)が制定されたことに伴い、2009年に「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予」制度として創設されました。
その後、2013年の大幅改正で適用要件の緩和や手続きの簡素化が行われ、「非上場株式等についての贈与税・相続税の納税猶予及び免除」制度と名称を変えて、原則として2015年から施行されました。相続税の課税ベースの拡大等の見直しも同時に行われました。
2017年には贈与税の事業承継税制に相続時精算課税制度を選択することが可能となり、2018年には、制度の利用促進を目的として、事業承継税制(特例措置)が2027年12月31日までの期間10年の時限措置として創設されました。
特例措置は、「極めて異例の時限措置であることを踏まえ、適用期限は延長しない。」(令和7年度税制改正大綱)と明記されており、期限到来により廃止の見込みです。
このため、事業承継を検討されている方は、特例措置の有効期限内に事業承継税制の適用を検討すべきだと言えます。特例措置の適用を受けるには、2026年3月31日までに特例承継計画を提出し、2027年12月31日までに株式等の贈与・相続が終わっている必要があります。
2.特例措置後の事業承継税制はどうなるのか?
特例措置が期限を迎えた後の2028年からは、事業承継税制は一般措置だけが存続する見込みです。
一般措置は特例措置と比べ、比較表の通り様々な点で見劣りすることから、令和10年度税制改正に向けて一般措置改正の働きかけが行われることになると思われますが、特例措置レベルまでの改正はハードルが高いと言えます。
対象株式数、納税猶予割合などは改正して貰いたいと考えています。また、海外子会社がある場合における納税猶予額の縮減措置の改善、一定期間経過後の免除制度の導入なども検討して貰いたいものです。
【事業承継税制の特例措置と一般措置の比較表】
特例措置 (〜2027.12.31) |
一般措置 (2028.1.1〜) |
|
---|---|---|
事前の計画策定等 | 特例承継計画の提出 | 不要 |
適用期限 | 2027年12月31日 | なし |
対象株式数 | 議決権株式の 全株式 |
議決権株式の 3分の2まで |
納税猶予割合 | 贈与・相続とも100% | 贈与100%、相続80% |
後継者数 | 最大3人 | 1人 |
雇用確保要件 | 実質撤廃 | 承継後5年間 平均8割の雇用維持要件 |
事業継続の困難事由が 生じた場合の免除 |
あり | なし |
相続時精算課税制度の適用 | 60歳以上の者から18歳以上 の者への贈与 |
60歳以上の者から18歳以上 の推定相続人・孫への贈与 |
(日本商工会議所作成資料より。一部加工)
≪会計検査院報告≫
2024年11月、会計検査院から内閣に送付された「令和5年度決算検査報告」において、「特定検査対象に関する検査状況」の中で「相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について」が取り上げられました。※1、※2
検査報告は内閣から国会に提出されます。
【検査の状況】(抄)
1.原則的評価方式による評価の状況
- 類似業種比準価額の中央値は純資産価額の中央値の27.2%となっており、類似業種比準方式及び併用方式による各評価額は、純資産価額方式による評価額に比べて相当程度低く算定され、各評価方式の間で1株当たりの評価額に相当のかい離が生じている状況
- 純資産価額に対する申告評価額の割合の分布状況をみると、その中央値は、大会社0.32倍、中会社0.50倍、小会社0.61倍となっており、評価会社の規模が大きい区分ほど株式の評価額が相対的に低く算定される傾向
▶このような状況は、異なる規模区分の評価会社が発行した取引相場のない株式を取得した者間で株式の評価の公平性が必ずしも確保されているとはいえないと思料
- 配当還元方式の還元率(10%)は、評価通達制定当時(昭和39年)の金利等を参考にするなどして設定され、その後還元率は金利の水準が長期的に低下する中で見直されていない
▶10%の還元率に基づいて算定される評価額は、通達制定当時と比べて相対的に低くなっているおそれがあると思料
【所見】
国税庁において、相続等により取得した財産のうち取引相場のない株式の評価について、異なる規模区分の評価会社が発行した取引相場のない株式を取得した者間での株式の評価の公平性や社会経済の変化を考慮するなどして、評価制度の在り方について様々な視点からより適切なものとなるよう検討を行っていくことが肝要
(下線部筆者)
検査報告を受けて、国税庁が、取引相場のない株式評価の見直しを行うという意見があります。
いっぽう、「特定検査対象に関する検査状況」は、検査報告で掲記が義務付けられているものではなく、「会計検査院の検査業務のうち、検査報告に掲記する必要があると認めた特定の検査対象に関する検査の状況」であり、不適切な事態として通常「指摘事項」と呼ばれているものとは異なることから、通達改正を行うにはインパクトが弱いという意見もあります。
また、日本商工会議所は「令和7年度税制改正に関する意見」(2024.9.18) において、「純資産価額方式のような企業の清算を前提とした評価方法を抜本的に見直すべきである。」、「抜本的見直しを行うまでの間、純資産価額方式における株式の評価について、以下に掲げる措置を講じるべきである」として、むしろ純資産価額を引下げるべきであるという意見を表明しています。※3
取引相場のない株式評価については事業承継問題とも関係することから、検査報告が投げかけた問題は一朝一夕に解決するとは言えないものの、今後の動向には注目しておく必要があります。
(玉越賢治)
(本件にかかる部分は654 ~673 ページ)
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