Seminar & Writing  - セミナー・執筆活動

ホールディング化により事業承継税制の適用が受けられなくなるリスクについて

相続対策や経営効率の向上を目的として、実業会社の上に親会社を設立し、ホールディングス体制を構築することがあります。このような体制は、本来の目的について一定の効果が得られる一方で、事業承継税制の適用要件を満たさないリスクを抱えるケースも見受けられます。
現実では、ホールディング化が形式的、または将来の活用を見据えずに行われており、親会社が実質的な事業活動を行っていないことも少なくありません。
このような状況で、オーナー経営者の相続が発生し、相続税の納税が困難なことが分かり、急遽「事業承継税制」の適用を検討することになった場合に、制度の適用要件を満たしていないリスクが顕在化します。なお、事業承継税制は、贈与の際のみならず相続からの承継でも適用が可能です。(措法70の7の6①)
ホールディング化がなされていると、親会社が適用対象になりますから、親会社について適用要件を検討します。親会社が事業を営んでおらず、従業員も雇用していない場合、同制度の対象となる中小企業の要件を満たしません。さらに、親会社の代表取締役が設立当初から子(後継者)であり、被相続人が一度も代表に就任していなかった場合にも適用対象外になります。(なお、事業承継税制の対象外となる資産保有型会社・資産運用型会社の判定においては、事業実態要件を満たす子会社株式は特定資産から除外されます)(措法70の7の6、②、措令40の8の6①)
結果として、ホールディング化していなければ、従業員の雇用や事業実態を有する子会社で制度の適用が可能だったにもかかわらず、組織再編の影響で制度の恩恵を受けられないという事態が生じることがあります。
このように、相続が発生する以前は「事業承継税制を使うつもりはない」と考えていた場合でも、実際に相続税の負担が明らかになった段階で制度の必要性が浮上することは珍しくありません。したがって、事業承継税制は「使う」ことを前提とせずとも、「使える状態にしておく」ことが、リスク管理上重要になります。言い換えれば、万が一に備えた「保険」として、制度の適用要件を満たす状態を整えておくことが重要であると言えます。
(中山史子)
お問合せContact お電話でのお問合せ03-6665-6972受付:平日9:30~16:30