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生命保険に関する権利を相続人以外が引き継いだ場合の課税関係について

【はじめに】
相続や名義変更の手続の際に、つい見落としてしまいがちな項目の一つに「生命保険に関する権利」があります。本レポートでは、具体的な事例を交えて、「生命保険に関する権利」について解説します。
【事例】
Aが死亡し、相続人はAの子であるBおよびCの2人です。Bには子D(Aの孫)、Dには子E(Aのひ孫)がいます。Aは遺言書を作成していません。
現在、以下のように生命保険契約の名義変更が検討されています。
【図】
保険料負担 保険契約者 被保険者 受取人
名義変更前 被相続人A 被相続人A D 被相続人A
名義変更後 D D D E
この場合の課税関係を教えてください。
【親族関係図】

画像2.gif

【課税関係】
相続人であるBおよびCが「生命保険契約に関する権利」を相続により取得し、その後、D又はEへ贈与したと考えられます。
1.相続税の課税
被相続人Aが保険料を負担し、保険契約者であったことから、「生命保険契約に関する権利」は相続財産として評価されます。(相続税法基本通達3-36)
したがって、この契約に関する権利は、遺産分割協議の対象となる財産となり、相続人であるBおよびCがこれを取得したものとして契約者はDに変更されましたが、BとCに相続税が課税されます。
2.贈与税の課税(保険事故発生時)
BとCが権利を相続した後、当該保険契約の契約者をDに名義変更しても、その時点ではDに贈与税は課税されません。
贈与税が課税される時期は、以下のような保険事故が発生した場合で、相続人であるBおよびCからDまたはEへの贈与があったものとされます。
・Dが契約を解約して解約返戻金を受け取った場合:Dに贈与税が課税
・Dが死亡し、Eが死亡保険金を受け取った場合:Eに贈与税が課税
【権利も課税対象になることに留意】
生命保険の契約者でも、「受取人が自分ではない」「被保険者が自分でない」「保険料を払っていない」といったケースでは、「保険金そのもの」ではなく、「生命保険契約に関する権利」が契約者(事例では被相続人A)に帰属します。
被保険者が被相続人ではないため死亡保険金がおりなくても、契約者の死亡によって承継される「権利」として、相続税の課税対象になります。被保険者が子や配偶者の契約の場合は、死亡保険金が発生しないため、うっかり相続税申告から漏らすことがあり注意が必要です。
【生命保険契約に関する権利とは】
「生命保険契約に関する権利」とは、保険契約者が保有する、権利の経済的価値を評価、認識する概念であり、税務や相続の場面で重要な意味を持ちます。
「生命保険契約に関する権利」は、保険料を払い込んでいる途中の生命保険契約で、保険料負担者が死亡し、契約自体を相続することになったケース等において、保険料負担者(契約者)の相続財産となり、その内容により、以下の図のように「通常の相続財産」と「みなし相続財産」に分けられます。
【図】
保険料負担 保険契約者 被保険者 受取人
通常の相続財産となる場合 被相続人 被相続人 相続人 被相続人
みなし相続財産となる場合 被相続人 相続人 相続人 被相続人
なお、相続税の対象となるのは、解約により払い戻しがある保険契約で、相続税評価額は解約返戻金の額となります。(財産評価基本通達214)
【支払調書と税務調査の実務】
・支払調書制度
税務当局は、支払調書(法定調書)制度により、生命保険会社等から「支払調書」の提出を受け、生命保険契約における契約者の変更情報を把握することで、相続税や贈与税の課税漏れの防止を図っています。
契約者の死亡に伴い契約者が変更された際に、保険会社は、変更内容および変更時の解約返戻金相当額を記載した調書を税務署へ提出する義務があります。
・税務調査での確認事項
税務調査において「生命保険契約に関する権利」は、相続税・贈与税の申告漏れを把握するうえで重点的に確認される対象です。契約者死亡後の保険料負担者が誰かを確認し、適切な課税が行われているかが調査されます。
【まとめ】
「生命保険に関する権利」は、つい見落としてしまいがちですが、相続財産として評価・申告の対象となる財産のひとつです。
名義を簡単に変えてしまうと、申告がもれてしまったり、思わぬ税金がかかったり、後で税務署から指摘されることもあります。
そうならないように、あらかじめ専門家に相談して、しっかり確認しながら手続きを進めることが大切です。
(神場元樹)
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